家族信託と死後事務委任の使い分け―高齢者の施設入居を安心にするために
施設入居のときに多くの方が抱える不安とは
高齢者施設に入居する際には、いくつかの共通した心配があります。
まず大きな問題は、施設から求められる「保証人や身元引受人を誰に頼むか」という点です。
また、将来認知症などで判断能力が低下したとき、契約や支払いができなくなるのではないかという不安も見逃せません。
さらに、おひとりさまや子どもに負担をかけたくない方にとっては、亡くなった後の葬儀や役所手続き、遺品整理などが宙に浮いてしまうことが大きな懸念になります。
家族信託でできることと向いているケース
家族信託は、生前から財産管理を家族などに託す仕組みです。本人が認知症を発症しても受託者が財産を管理できるため、施設費用や医療費を途切れることなく支払える点に大きな強みがあります。
費用の目安は、契約書の作成や公正証書、登記を含めて数十万円から百万円程度。資産の種類や専門家の報酬によって差があるため、事前の見積もり確認は欠かせません。
特に将来の認知症リスクが心配な方や、資産が複雑な方には有効な選択肢です。
【家族信託の特徴】
できること | できないこと |
---|---|
認知症になっても財産管理を続けられる | 死後の手続きは対象外 |
施設費用・医療費を安定的に支払える | 葬儀・納骨などは任せられない |
死後事務委任契約が力を発揮する場面
一方で、死後事務委任契約は本人の死後に備える契約です。死亡届の提出や各種解約手続き、葬儀や納骨、遺品整理といった事務を、あらかじめ信頼できる人に任せておけます。
費用相場は、公正証書の作成で数万円、さらに受任者への報酬や預託金として数十万円が一般的。依頼先が行政書士・司法書士・弁護士など誰になるかによっても金額は変動します。
おひとりさまや家族に死後の手続きを頼みにくい方にとって、安心感をもたらす方法です。
【死後事務委任契約の特徴】
できること | できないこと |
---|---|
死亡届や行政手続き | 生前の財産管理 |
葬儀・納骨・遺品整理 | 入居費用の支払い管理 |
身元保証会社に依頼できるサポートの範囲
身元保証会社は、制度そのものではありませんが、施設入居をスムーズにするために重要な役割を果たします。
入居時に求められる保証人や緊急時の対応、さらには入退院や転居の支援など、生活面を幅広くカバーします。
費用は入会金や月額費用、死後事務代行費用といった形で設定され、提供会社によって異なります。
家族信託や死後事務委任だけではカバーしきれない部分を補完できる点が特徴です。
【制度・サービスの比較表】
家族信託 | 死後事務委任契約 | 身元保証会社 | |
---|---|---|---|
生前の財産管理 | 〇 | × | △(生活費支援は可能) |
死後の事務手続き | × | 〇 | △(契約内容による) |
施設入居時の保証 | × | × | 〇 |
状況に応じた選び方のヒント
家族にしっかり頼れる場合は、家族信託や遺言で整理し、不足部分を外部に委ねる方法が適しています。
一方、家族が遠方にいたり部分的にしか協力できない場合は、死後事務委任契約で葬儀や行政手続きを任せ、身元保証会社を入居保証のパートナーとして活用すると安心です。
親族に頼れない「おひとりさま」にとっては、資産管理は家族信託、死後の事務は死後事務委任、入居や生活支援は保証会社というように、複数を組み合わせるのが現実的な解決策です。
安心して施設に入居するための準備ステップ
まずは「家族信託」と「死後事務委任契約」の違いを理解し、それぞれにできること・できないことを把握しましょう。
次に、家族・専門家・外部サービスの役割を整理することが大切です。
最後に、元気なうちから契約や準備を進めておくことで、認知症の発症や急な入院に備え、将来の不安を大きく減らすことができます。
まとめ
家族信託は「生前の財産管理」、死後事務委任契約は「死後の手続き」、そして身元保証会社は「施設入居や生活支援」と、それぞれ役割が異なります。
どれか一つで全てをまかなうことは難しいため、状況に応じて適切に組み合わせることが安心につながります。
制度やサービスを中立的に理解し、自分や家族に合った形を選ぶことが、安心して老後を迎える第一歩です。
