家族信託の本質的な課題──「財産管理」から「人生伴走」へ
家族信託は、高齢期の資産凍結リスクを避ける有力な選択肢として広がっています。しかし、制度として正しく設計しても、現場では「生活が守られない」ギャップが起きがちです。本稿では、利用者(高齢者と家族)が直面しやすい本質的な課題を整理し、その先に必要な“人生伴走”の視点と、身元保証の役割をわかりやすく解説します。
家族信託で見落とされがちな「3つの本質的な課題」
信託終了後に誰が生活を支えるのかという“空白の時間”
家族信託は委託者の死亡で終了するのが一般的です。ところが、受益者の見守りや生活支援、死後の各種手続きは契約の外側に置かれがち。信託終了後、誰が何を担うのかが不明確なままでは“支えの空白”が生まれます。
身上監護の欠如──お金は管理できても「生活の意思決定」はできない
家族信託は財産の管理・運用を目的とする仕組みです。介護サービスの契約、医療の意思決定、入院・施設入所の手続きなど、身上監護(生活支援)は原則カバー外。結果として「お金は動かせるが、生活は止まる」というアンバランスが生じます。
家族がいても孤立する現実──制度では埋められない“つながりの欠如”
受託者となった家族に実務負担が集中し、距離・時間・心理的負荷の壁から支援が細ることがあります。名義上の管理と、日々の付き添い・連絡・調整は別物。制度だけでは孤立を防ぎきれません。
なぜ“正しく設計した家族信託”でもトラブルが起きるのか
契約書では想定できない「感情と関係性」の問題
いかに緻密な契約でも、兄弟間の不信や「使途が不透明」といった感情対立は条文で解決しづらい領域です。可視化されたルールに加え、説明責任や合意形成の運用設計が不可欠です。
財産管理の専門家はいても、“生活を支える人”がいない
司法書士・税理士・金融機関は法務・税務・手続きの専門家ですが、見守りや通院同行など日常支援は守備範囲外。制度の“間”に、誰も担い手がいないゾーンが残ります。
制度の限界を理解しないまま導入し、後戻りできなくなるケース
途中変更が難しいのが家族信託。任意後見や遺言、死後事務などとの役割分担を整理せず導入すると、想定外の制約が後から顕在化します。
実際に起きたトラブルから見える「家族信託の限界」
信託口座が開設できず、資金が動かない
金融機関の運用方針や現場理解に差があり、信託口口座の開設で足止めとなる例があります。結果として、契約はあるのに肝心の運用ができない状況に。
受託者の使い込みで家族間が分裂
信頼前提の設計に依存しすぎると、記帳・報告・チェック体制が甘くなり、不正・誤解・疑心を招きます。監督や第三者関与の設計が鍵です。
親の死後、遺留分侵害をめぐり紛争化
家族信託で遺産配分をコントロールしようとしても、相続の基本ルールは存続します。相続人の権利との整合性を事前に検討しておく必要があります。
身上監護の不在で、介護・入院の意思決定が滞る
財産は管理できても、入退院や施設入所の判断・契約は別問題。ここに伴走者がいないと、現場が止まります。
「財産管理」だけでは安心できない時代に必要な発想転換
「財産の守り」から「人生の伴走」へ──支援の視点を加える
求められているのは、資産を守ることと同じくらい、暮らしの継続を支えること。制度と人の支えを組み合わせ、生活を止めない設計へ舵を切ります。
家族信託の後を引き継ぐ“見守り”と“つなぎ役”の重要性
信託終了後や判断力低下時に、見守り・連絡調整・死後事務を担う存在が不可欠です。ここを誰が担うのかを、契約時から決めておきましょう。
だから身元保証が必要
身元保証は、入退院・施設入所の身元引受、日常の見守り連絡、必要時の手続き支援、死後の事務など、生活側の“穴”を埋める仕組みです。家族信託(法的・財産の車輪)+身元保証(生活・伴走の車輪)という二輪で走ることで、安心の持続性が高まります。
トラブルを防ぎ、安心して家族信託を活かすための3つの実践ポイント
専門家+家族+支援者が一体となる“チーム設計”
法務(司法書士)・税務(税理士)・生活支援(身元保証等)が連携する体制を作り、連絡経路・判断プロセス・記録方法を共有します。
契約書だけでなく、日常支援の流れを設計する
口座運用・記帳・報告頻度、見守り連絡、通院・入院時の役割分担、緊急時の連絡網など、運用ルールを事前に文書化します。
家族信託と、身元保証・任意後見・遺言を組み合わせる
単独の制度に依存せず、目的に応じた併用でリスクを分散。役割分担(財産管理/身上監護/死後事務)を明確にし、相互に補完します。
まとめ
信頼を「制度」から「関係性」へと発展させることが本質
家族信託の価値は、財産を守ることだけではありません。家族の信頼を損なわず、安心を継続させるための“関係設計”こそが要です。
「財産を託す」だけでなく「人生を支え合う」時代へ
制度は必要条件。十分条件に近づけるには、日常を支える人と仕組みが欠かせません。
家族信託+身元保証で“安心の継続性”を実装する
法と生活の両輪で、認知症の不安や死後の心配までシームレスに備えることができます。検討段階から、家族・専門家・支援者での事前設計をおすすめします。
家族信託の設計や、身元保証との併用についてのご相談はお気軽にお問い合わせください。ご家族の状況に合わせた最適な伴走プランをご提案します。
